政府が進める「子ども・子育て新システム」で
児童福祉法が骨抜きになる ──── 市町村が保育事業に責任をもたなくなります
国の幼保一元化への動きには児童福祉法の基本をなくしてしまう重大な考え方が盛り込まれています
幼保一元化の検討にむけ審議会設置へ
かつらぎ町は、2011年度から幼保一元化の検討を具体的に始めるために「幼児教育・保育運営審議会」の委員を選任して、審議を始める予定です。
3月議会で教育委員会は、この「運営審議会」の委員は、すべて充て職によって構成すると答弁しています。審議会委員をすべて充て職にすると、選出母体で役職が終了するたびに審議会委員の差し替えが起こり、議論が蓄積されません。
日本共産党議員団は、このことを指摘しつつ、「事務局は保育士と幼稚園教諭を中心に構成し、そこで十分に案を検討すること」を提案しました。
この提案は、歴史的な経緯をふまえたものです。かつらぎ町は、1980年代から2園の保育所の民間委託をすすめ、幼稚園1園を廃止しました。その際、町は、幼稚園や保育所の意見を聞かずに事務を進めました。
全国の先進事例では、保育所と幼稚園の事業内容と経験を重視して、検討の軸に保育士と幼稚園教諭をすえ、内容豊かな幼保一元化を実現したところがあります。日本共産党は、保育士と幼稚園教諭の意見を何よりも大切にすべきだと考えます。
「新システム」で児童福祉がとんでもないことに
ところで民主党政権によって、保育所と幼稚園は、大きな改革の波にさらされています。
政府は、昨年6月に「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」(以下「新システム」)を発表しました。
政府は、今年1月中に案を取りまとめ、通常国会で法案を成立させ、2013年度から本格実施を行う計画でした。しかし、「新システムに対し、不安と反対の声が強くなり、さらに3月11日の東日本大震災によって、案の取りまとめが遅れました。作業は4月以降再開される予定であり、「新システム」導入に向けた重大な情勢が進行中です。
現金給付で児童福祉法を骨抜きに
「新システム」はどのような内容をもっているのでしょうか。
国は子育て支援の「包括的・一元的な制度」を作ろうとしています。子育てにかかわる制度には、現金給付の制度や保育所や幼稚園などの施設サービスなどがあります。これらをすべて一元化するのが「新システム」です。考え方の基本は、現金を給付するということです。
国から自治体への交付金は、「子ども・子育て包括交付金」として一本化されます。制度の実施主体は、市町村です。制度設計は、市町村の自由度に任されます。
今までは、国が制度を設計し、財源を確保して事業を実施してきました。これを廃止して、市町村がサービスの基準を策定し、メニューの選択と設定、予算配分などを行います。
国が新制度を導入する最大の目的は、財政の削減です。財政が削減され、裁量権が市町村にゆだねられると、憲法が保障する最低限度の福祉が後退しかねません。
国民への子育て支援は、現金給付が基本となります。子ども手当、妊婦健診、一時預かり、地域子育て支援などは、「すべての子ども・子育て家庭を支援する給付」として位置づけられます。
また、働いている親子などを対象とした育児休業給付や保育・学童保育、3歳児以上の幼児教育などは、「両立支援・保育・幼児教育給付」(仮称)となる予定です。
国は一定の補助金を出す。あとは国民が自由にサービスを選択するという考え方です。
市町村が保育事業から完全撤退
これによって、保育事業が大きく変わります。最も重大なのは、市町村に保育の実施責任がなくなることです。現行の児童福祉法第24条は「その監護すべき乳児、幼児又は第三十九条第二項に規定する児童の保育に欠けるところがある場合において、保護者から申込みがあつたときは、それらの児童を保育所において保育しなければならない」と規定しています。
この規定にもとづいて各市町村は、保育所を設置したり、私立の認可保育所に事業を委託してきました。しかし「新システム」が導入されると、市町村の責任は、「保育の必要度」を認定し「幼保一体給付」という補助金を支払うだけになります。
保護者は、自分で保育を行っている事業者を探し、直接契約を結ぶことになります。事業者の保育料は、事業者が自主的に設定します。これらのことがどのような問題を生み出すのか。次回もいっしょに考えてみましょう。(つづく)